注目を集めた日本陸上選手権は6月27日から30日まで福岡県博多の森陸上競技場で行われた。注目の男子短距離はサニブラウン・ハキームが別次元の走りで圧倒し、100メートル、200メートルの2種目を制して2年ぶり2度目の2冠を達成した。
これでサニブラウンは100メートル、200メートル共に9月から10月にかけて行われるドーハの世界選手権代表に決まった。次はいよいよ世界のレベルで自分の実力を試す時が訪れる。
● 圧巻の100メートル
100メートル決勝には気胸で欠場した最強•山縣亮太以外は順調に勝ち上がってきた。最速•桐生祥秀、200メートルが得意ながらも今シーズン100メートルで進境著しい小池祐貴、スタートに定評ある多田修平、復活をかけるケンブリッジ飛鳥、200メートルに実績のある飯塚翔太、更に川上拓也と坂井隆一郎。
この7人がサニブラウンとの対決に牙を剥く。確かに今シーズンのサニブラウンは2度の9秒台をマークして好調を維持している。しかし、陸上競技は気象条件や対戦相手によって記録が違ってくるので、同じ大会、同じコース、同じレースで走ってみなければ本当の強さは分からない。昨年、最強を謳われた山縣は同じレースで走った日本人選手に全て先着したので最強と言われたのである。
従って、いかに9秒97の日本記録を出したといっても、今シーズン好調でガトリンとも好勝負を演じた桐生や自己記録を大幅に更新した小池には、「簡単に負けてたまるか、勝ってやる」という気迫が感じられた。
予選は小池10秒22、サニブラウン10秒30、桐生10秒31とタイムは出なかったが余裕の1着通過。準決勝は1組で小池10秒09の好タイムで10秒22の桐生に先着。2組はサニブラウン10秒05の大会タイ記録で、ケンブリッジ、多田を最後は軽く流して圧勝。この時、サニブラウンの強さが本物と感じた人は多かったはずだ。
そして迎えた決勝。レース1時間前まで大雨のせいで湿気が多く記録は出づらいコンディションの中で、スタートは桐生が好ダッシュ。いつもの相手ならこのスタートで中盤まで行けば桐生の快勝。しかし、スタートが苦手なサニブラウンにしてはなかなかのスタートを切って、中盤で桐生に追いついて後は並ぶ間もなく置き去りにする。最後は余裕綽々ながらも離す一方。10秒02の大会記録更新。
結局、9秒台は出なかったが2着の桐生に0秒14の大差。普通の気象条件なら9秒台は楽に出ていたはず。まだ、最強の山縣とは走っていないが、今のままでは山縣も勝てないとの危機感は持ったはず。史上最速の決戦と言われた100メートル。サニブラウンにとって、あとは世界で通用するかが問われる。
● 自信の200メートル
スタートに不安を持つサニブラウンにとって、たとえスタートで失敗しても距離が伸びた200メートルならハンディが軽減される事もあって、100メートルよりむしろ得意な分野。100メートルであれだけのパフォーマンスを見せ付けられた事もあって、観客や報道陣からはレース前から2冠達成の期待が確信に変わっていた。
200メートルの出場選手は3組22人と寂しいエントリーになったが、予選1組の小池祐貴は余裕の走りで予選トップの20秒62の1着通過。2組は実績ナンバーワンの飯塚翔太にアクシデントがあり、レース途中で棄権。1着は白石黄良々の20秒91。桐生祥秀は着順に拘らず0秒01差の2着で通過。3組サニブラウン•ハキームは最後は余裕の流しで20秒84の1着。
決勝はサニブラウンの優勝が確実とレース前から見られている。もし、抵抗するとしたら桐生より200メートルアジア王者の小池と思われている。レースは予想通りサニブラウンに小池が肉迫して会場は湧いたが、120メートル以降はサニブラウンが徐々に引き離して20秒35のフィニッシュ。2着小池は20秒48、桐生が3着で20秒54と100メートルに続いてサニブラウンの強さが際立ったレース。
新聞やスポーツニュースにはサニブラウン1強の文字が躍る。確かに圧倒的な強さを見せ付けられた。たとえ、最強の山縣亮太が昨年の好調を維持していても、今回勝つのは難しかったかもしれない。その位インパクトのあるサニブラウンの走りだった。
しかし、このままサニブラウン1強で終わってしまったのでは日本短距離界に未来は無い。強いサニブラウンに肉迫して勝つという意識を失っては進歩は止まってしまう。来年の東京オリンピックで活躍するためにも、400メートルリレーで金メダルを獲得するためにも打倒サニブラウンを目指して切磋琢磨してもらいたい。
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