9月27日開幕したドーハの世界陸上選手権。いきなり、史上最速といわれるサニブラウン・ハキーム、桐生祥秀、小池祐貴の9秒台トリオが出場する男子100メートル予選等で始まった。
その男子100メートル。100メートル9秒台を桐生が初めて記録したのが2017年9月。あれからちょうど2年。昨年は日本最強を誇った山縣亮太が2度目の10秒00をマークする等、日本短距離界のレベルアップは目に見える形で現れてきた。
更に、今年6月にはサニブラウンが桐生の9秒98をあっさり破る9秒97。7月に小池が9秒98。もはや『夢の9秒台』ではなくいつ誰が出しても当たり前のような状況に、『東京オリンピックでメダル』の期待が持たれて迎えたドーハ世界陸上選手権のリポート。
● 視線は『東京オリンピック』でメダル、サニブラウン・ハキーム
3人の中でも最も注目を集めたのがサニブラウン・ハキーム。20歳ながら既に3度目の世界陸上。2017年、2019年共に日本陸上選手権で100メートル、200メートルの2冠。昨年は故障で一年を棒に振ったが今年6月、桐生の100メートル日本記録9秒98をあっさり更新する9秒97をマーク。
既にサニブラウンの目は『東京オリンピックでメダル獲得』に向けられていて、今回の世界陸上はその第一歩と捉えていたはず。予選は今大会優勝のクリスチャン•コールマンの隣のレーン。課題だったスタートはやはり遅れたが中盤でスピードに乗ると、最後は横を確認しながらの3着で予選突破。
「あまり深く考えずに、とりあえず予選通ればよいかなと思っていた。後半少し手を抜き過ぎたかな」と、余裕のゴール。
しかし、決勝進出のかかる勝負の準決勝。2年前にはスタート直後にバランスを崩して敗退。雪辱を果たすはずだったが、またしてもスタートで失敗。「音が全然聞こえなかった。横が動いたから『あっ』みたいな感じで……」と、またしてもスタートの失敗で散ってしまった。
優勝したコールマンは23歳とほぼ同世代。前回の銀メダルから今大会は金。これが実力の差と認識しないで、スタートを言い訳にして同じミスを繰り返しているようでは東京オリンピックでのメダル獲得などは夢に終わってしまう。ここ一番の集中力を磨いて再びチャレンジするしかない。
● 日本人最初の9秒台•桐生祥秀
日本選手権こそサニブラウンに完敗したが、今年の桐生祥秀は例年になく安定感があり、コンスタントに10秒0台を出して好調。どちらかというと、中盤からのスピードに定評ある選手だが今年はスタートも悪くない。
予選は強豪揃いの4組に登場。新型のスパイクで好スタートを決めて飛び出す。「着順でいけなかった」と悔しがったが、自動的に予選突破の3着以内には0秒04差の4着に終わったが、4着以下の選手の中では最速の記録で準決勝に進出。
準決勝は桐生も含めて全員が9秒台というハイレベルの組。抜群のスタートで飛び出して序盤はリード。見せ場は十分だったが、得意なはずの中盤から海外の強豪に次々に抜かれて10秒16の6位。
「強がりかもしれないけど、敢えて言うなら、ファイナルに行くというのは全然遠く感じなかった」と手応えを口にする。
確かに、これまでの桐生は五輪と世界陸上で準決勝にさえ進んだ事がなかった。その点、今大会は準決勝進出で一定の結果を出したとも言えるが、かと言ってファイナルに残るにはまだまだ実力不足と言わざるを言えない。あと一年死に物狂いの努力で結果を出すしかあるまい。
● 彗星の如く現れて勢いのままにぶつかる小池祐貴
専門は昨年のジャカルタアジア大会を制した200メートルと思っていたが、昨年から次々に100メートルの自己ベストを更新してきた小池祐貴。今年になって10秒0台を連発。100メートルにも自信をつけ、7月の『ロンドングランプリ』では世界の強豪に混じって健闘し、日本人3人目となる9秒台の9秒98をマーク。
今大会はその勢いで向かって初めての世界選手権で自分の力がどの程度通じるかを見極めるチャンス。
予選は10秒21の4着に終わったが全体20番目のタイムで準決勝進出。「もっと緊張するかと思ったが、普通。緊張した方が体が動く」と、頼もしく前を見据えた。
しかし、張り切って臨んだ準決勝。「号砲の前に隣の選手の腕が動いたのが見え、フライングの雑念が入って思い切り出られなかった」と、不完全燃焼で10秒28という平凡なタイムで7着。
結局、三者三様の準決勝のレースだったが『世界』との実力の差は明らか。スタートを含めた序盤、スピードに乗る中盤、死力を振り絞る終盤と全て完璧には行かないだろうが、研ぎ澄まされた集中力と、ミスを取り返す実力を付けないと『東京オリンピックでのファイナル』は望めない。今大会に出場した3人に山縣亮太を加えた熱い代表選考で更にレベルアップを期待したい。
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