正に熱闘、激闘だった。全英オープン8度の優勝を誇るロジャー•フェデラーと、昨年に続き5度目の戴冠を目指すノバク•ジョコビッチの『芝の王者決定戦』。フェデラーがサーブから早い仕掛けで積極的にネットに出てポイントを挙げれば、そのスピードに食らい付いてラリーに持ち込んで反撃するジョコビッチ。手に汗握る二人の争いは若手の追随を許さず、ラファエル•ナダルを含む『3強時代』に終焉はないとでも言うように、ワンランク上の王者同士のぶつかり合いを演じて見せた。
37歳のフェデラーと32歳のジョコビッチ。これまでならそろそろピークを過ぎて下り坂。若手の躍進に手を焼いて衰えを感じながら気が付けばランキングが下がっていた、という年頃。しかし、今は栄養学や情報力で補って衰えどころか、まだまだタイトルを積み重ねて行けそうな雰囲気。現に、次世代の筆頭と言われる錦織圭も「3強の安定感は抜けている。まだまだ3強は続く」と、今大会前に予言する程。
● フェデラーが押し気味の第4セットまで
14000人を超える観客のほとんどの声援を受けてロジャー•フェデラーが押し気味に試合を進める。第1セットはキープ合戦の末にタイブレークに持ち込まれるが、要所を押さえたノバク•ジョコビッチが7━5の接戦で制して先行。
第2セットはフェデラーが『芝の王者』の実力を遺憾なく発揮して、3度のブレークで6━1とジョコビッチを圧倒。安定感のあるサーブから積極的に仕掛けて速い攻めで付け入る隙を与えず圧勝。
第3セットは第1セット同様の次元の違う両雄の息もつかせぬキープ合戦。サーブの精度、フェデラーの片手打ちのバックハンドとジョコビッチの深くて正確なフォアハンドの打ち合い。再びタイブレークに持ち込んだジョコビッチが優勢に進めて7━4でセットカウント2━1とリード。フェデラーにすれば不思議な感覚だったに違いない。トータルポイントも、その他の数字もリードしていてブレークさえ許していないのに、気が付けば1セットダウン。
第4セットは前半またもキープ合戦が続くが、ジョコビッチのサーブが好調で簡単にキープしていく反面、フェデラーは苦しみながら何とかキープしていく。第5ゲーム打ち合いの末のインのコールへのフェデラーのチャレンジが認められて、この試合4回目のブレークに成功。更に流れを摑んだフェデラーが第7ゲームに再びブレーク。第8ゲームにジョコビッチが初めてのブレークに成功するが、その後お互いにキープしてフェデラーが押し切りセットカウント2━2に並び、勝負は運命の第5セットに持ち込まれる。
● いつ終わるとも知れない白熱の第5セット
ジョコビッチのサーブから始まった最終セットも、両者疲れを見せずにこれまでのように短い展開ではフェデラー、ラリーが続くとジョコビッチという展開でキープをしあい第5セット3━2でジョコビッチリードの後、やや疲れが見えたフェデラーが早め早めの展開でネットに出るところを抜かれて先にブレークを許す。
ジョコビッチ優勢かと思われた第7ゲーム。芝が重くなってボールが弾まないせいか、お互いにキープに苦労している中、デュースで長いラリーを制して摑んだフェデラーのブレークチャンス。更にスライスを混ぜた深い返球で再びラリー合戦を制してブレーク、4━3に。更に第8ゲームをサービスエースで決めて4━4に押し戻す。
ここから再びお互いに苦しみながらもキープを続けて第12ゲームを終了して6━6。昨年までならどちらかが2セットリードするまで延々とゲームが続けられるが、今大会から24ゲーム終了時点で12━12で並んだ場合はタイブレーク制で勝敗を決する事に変更。
ここからはお互いに我慢の時間帯。7━7の後の第15ゲーム。ラリーからジョコビッチ30━0と先行するが、フェデラーがラリーで驚異の粘りを見せて3連続ポイントでブレークチャンス。最後はネットに出るジョコビッチの脇を鋭いショットで抜いてブレーク。勝利までワンキープ。
第16ゲーム。15━15からフェデラーが驚異の2連続サービスエースで、ついにチャンピオンシップポイントを迎えた。しかし、ここからジョコビッチの底力で2本返すと、更にラリー合戦に持ち込んで逆に4連続ポイントでブレークを返し8━8に。
ここから更に延々と続けられるキープ合戦。フェデラーに向けられていた圧倒的声援も、いつの間にかジョコビッチにも向けられて既に4時間近い時間が流れているはずだが、誰一人席を立つ者もなく両雄の一挙手一投足に釘付け。
お互いの特徴を活かしてジョコビッチのラリー、フェデラーのサーブからの速い攻めで両者一歩も譲らず第23ゲームにジョコビッチが先にキープして12━11としてプレッシャーを掛ける。しかし、フェデラーはものともせずに積極的に前へ出続け、最後はサービスエースでキープ。ついに、史上初の12━12からのタイブレークに。
ジョコビッチのサービスキープから始まったタイブレーク。フェデラーはサーブからタウンザラインで追い付くが、次のサーブアンドボレー失敗でミニブレークを許す。ジョコビッチは冷静にキープ2本を並べて4━1と優位を保つ。しかし、フェデラーも絶妙のドロップショットとサービスポイントで4━3と諦めない。だが、ジョコビッチはラリー戦で2本共キープに成功して6━3とついにチャンピオンシップポイントを握る。最後はフェデラーのショットミスで、4時間57分の試合をジョコビッチが3度のタイブレークを全て制する勝負強さを発揮して、2年連続5回目の優勝。
しかし、錦織圭ウオッチングの筆者は決勝戦といえども、外国人同士の戦いはこれまでほとんど観てこなかったが、この歴史に残る熱闘を観られた幸せに感謝したい。勝者のジョコビッチも賞賛に値する冷静なラリーが光ったが、37歳のフェデラーのアグレッシブなぶれないテニスに感動した。錦織が言うように『3強の時代』はまだまだ簡単には終わりそうもないのかも……。
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