コロナウイルス感染第4波で緊急事態宣言が発令され、開幕まで3ヶ月を切った東京オリンピックの開催は不透明になってきた。しかし、一生に一度とも言える日本での開催にアスリート達は簡単に諦める訳にはいかない。少しでも可能性がある限りチャレンジし続けるのがアスリート魂というものだろう。既に代表が決定した競技もあるが、これからの大会で決まる種目も多い。
その一つが陸上競技の男子100m。まだまだ、世界の強豪達と五分に争うとまではいかないが、日本が優勝候補の一つに挙げられる4X100mリレーの代表にもかかわってくるので、熱い代表争いが繰り広げられている。最近の成績ではサニブラウン・ハキーム、桐生祥秀、小池祐貴……等が代表入りに近いと言われている。しかし、もう一人『最強』山縣亮太が復活の兆しを見せている。
100m代表選考方法
陸上男子100mの東京オリンピック選考要項は、2021年6月27日から大阪で行われる第105回日本陸上選手権で3位以内。なおかつ、当日の種目終了時点までに10秒05の参加標準記録を突破している選手と定められている。
要するに、たとえ日本選手権で3位以内に入っても、参加標準有効期間中に10秒05以上を記録していなければ内定はしない。現在、既に10秒05以上を記録している選手は3人いるので、この3選手が3位以内に入れば代表は内定する。
しかし、10秒05以上を記録している選手が日本選手権で3位以内に入らなかった場合。なおかつ、標準記録をクリアして3位以内の選手が3人に満たない場合は、日本選手権の順位を優先する。現在のレベルでは10秒05は決して難しい記録ではないので、日本選手権で3位以内に入る事が代表内定に繋がると言っても過言ではない。
現時点での有力候補達
現時点で有効期間中の10秒05を突破しているのは3人。
サニブラウン 9秒97
小池祐貴 9秒98
桐生祥秀 10秒01
前項で今の日本のレベルなら10秒05突破は難しくはないと述べた。ただ、現在はコロナウイルス感染拡大の影響で選手達の練習環境もこれまでとは違う。また、競技会も今後の感染状況次第では制限される可能性もある。更に、日本選手権までの競技会の数も限られる中で標準記録突破は意外に難題の可能性もある。
その点、既に10秒05を突破しているサニブラウン、小池祐貴、桐生祥秀の3選手は日本選手権一本に絞って調整出来る点でも、まだクリアしていない選手より有利なのは間違いない。更に、今シーズン好調な、ケンブリッジ飛鳥、2年間の故障から復活した山縣亮太の5人の争いになる。
復活山縣亮太の可能性
これまで桐生祥秀、サニブラウン、小池祐貴の3人が突破した10秒の壁。東京オリンピック選考基準タイムをクリアしているのもこの3人だけ。普通に考えてこの3選手で代表もほぼ決まりと考えてもおかしくない状況。しかし、それでもなお忘れてはならないのが山縣亮太。
大学時代から日本選手権を制し、オリンピックや世界選手権代表になるなど活躍している山縣亮太。セイコーホールディングに入社後の2年目2016年に実力を発揮。4月の織田記念で優勝。5月のゴールデングランプリ川崎でジャスティン・ガトリンに次ぐ、日本人最上位の2位。
6月の第100回日本選手権でケンブリッジ飛鳥に100分の1秒差の2位でリオデジャネイロオリンピック代表に選出された。そのリオオリンピック100mでは、準決勝進出を果たして自己最高の10秒05をマーク。また、4X100mの1走を務めて銀メダルを獲得した。
山縣が最も光彩を放ち無双の強さを見せ付けたのが2018年。織田記念、ゴールデングランプリ大阪、布勢スプリント、日本選手権を制し、ジャカルタ・アジア大会で自己ベストタイの10秒00で銅メダル。更に、全日本実業団、福井国体も制し、このシーズンは出場した19レース全てで、日本勢に先着を許さなかった。
『日本最強』山縣に試練が訪れる。2019年、肺気胸を患い日本選手権を欠場。癒えてトレーニング中の冬には足首の靭帯を痛める。更に、本来のオリンピックシーズンであった2020年右膝の故障で2年連続で日本選手権欠場。その後の大会にも出場しないでシーズンを終えた。
そして迎えた仕切り直しのオリンピックシーズン。強豪が揃った織田記念で山縣亮太は2位に0秒12差の10秒14で復活優勝。今後、標準記録10秒05を目標に五輪テスト大会やグランプリシリーズに挑み、6月24日からの日本選手権での3位以内を目指す。
日本選手権で勝負に徹するには、それまでの大会で10秒05を切る事が求められる。サニブラウン、小池祐貴、桐生祥秀の3人が断然有利だが、大舞台に強い上に幾多の故障と試練を乗り越えてきた精神力では誰にも負けない山縣亮太。甦った山縣のサクセスストーリーが今始まる。