陸上の全米大学選手権が6月7日(日本時間8日)テキサス州オースティンで行われ、決勝に進出したサニブラウン・ハキームは9秒97(追い風0•8メートル)の日本新記録を樹立して3位となった。サニブラウンは5月11日にも9秒99を出していたが、桐生祥秀の9秒98をあっさり更新して更なる世界レベルのタイムも見据えている。
● サニブラウン・ハキームの歩み
サニブラウン•ハキームは1999年3月6日福岡県北九州市生まれの20歳。サッカー経験のあるガーナ人の父親と、陸上短距離で全国高等学校総合体育大会に出場した日本人の母親というアスリート一家に生まれた。
子供の頃は父親の影響を受けてかサッカーに取り組んでいたが、小学校三年生の時に母親の薦めで陸上競技を始めた。その後、東京の城西大学附属城西中学校•高等学校に進学し、シドニーオリンピック日本代表の山村貴彦氏の指導を受け、高校1年生で国体100メートル(少年B)に10秒45のタイムで優勝。
2015年、高校2年生で日本選手権で100メートル、200メートル共に2位。世界ユース選手権では100メートル10秒28、200メートル20秒34で共に大会記録で優勝。特に、200メートルはウサイン・ボルト(ジャマイカ)の大会記録を塗り替えて話題になった。更に、この年は世界陸上競技選手権大会にも出場して200メートルでは史上最年少(16歳)で準決勝に進出して世界の注目を浴びた。
2017年の日本選手権は100メートル10秒05、200メートル20秒32と共に自己ベストで優勝し、末續慎吾以来の14年ぶりの短距離2冠をなし遂げた。その年も世界陸上選手権大会に出場して100メートルは準決勝で敗れたが、200メートルでは史上最年少(18歳5ヶ月)で決勝に進出し、20秒63で7位入賞を果たした。そして、8月には念願のアメリカ•フロリダ大学入学のために渡米した。
順風満帆のサニブラウンだったが、世界陸上選手権の大会中に右大腿部を痛め、フロリダ大学入学後はリハビリ生活を送る事になる。学業が優先される大学生活でリハビリもなかなか進まない中、昨年2月に完治しないまま室内レースに出場して足に違和感。そのまま屋外シーズンに突入したが、レース中にまた右大腿部を痛めて2018年は実績を残せないままシーズン終了。
● サニブラウン・ハキームの可能性
日本では2017年9月に桐生祥秀が日本人として初の9秒台を叩き出し、2018年は山縣亮太が日本選手に無敗の強さを誇っていた中、雌伏の時を送っていたサニブラウン。年末日本に帰国しないで、年始から練習に取り組み、苦手なスタートを克服するために敢えて室内レースの60メートルに出場して、スタートからの加速を体に叩き込んだ。
その甲斐があって室内レースで結果を出し、今回の全米大学選手権での9秒97という快挙につながった。ただ、まだまだスタートは不安定でなかなか序盤で主導権を握るレースは出来ないが、今のサニブラウンはたとえスタートで遅れても中盤から終盤にかけて立て直す冷静さを身に付けた。
桐生が9秒98を出した後9秒台をマーク出来ずに10秒01で足踏み状態。山縣は2017年、18年と連続で10秒00を出したが9秒台の壁が破れない中、サニブラウンは今年になって立て続けに9秒台をマーク。しかも、まだまだ伸びしろのある走りを考えると、どこまで記録が伸びるのか楽しみ。
しかし、トラック競技においてタイムはもちろん重要だが、気象条件、競技場、相手によって数字は変わってくる。本当の強者はタイムよりも他の選手に負けない事だろう。今回も100メートルは3位で、優勝したオドゥドゥル(ナイジェリア)は2学年上とはいえ同じ大学生で9秒86。上には上がいる。
不敗神話を作るために、まずは6月27日から福岡•博多の森陸上競技場で行われる日本選手権で、桐生、山縣、小池祐貴、多田修平、ケンブリッジ飛鳥……等、日本の一流スプリンターを抑えて9秒台を出せるか注目したい。
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