『令和の怪物』と騒がれた大船渡高校•佐々木朗希の夏が終わった。強豪花巻東との決勝戦にベンチスタートの上、マウンドにもバッターボックスにも立つ事もなく岩手県の決勝戦で散ってしまった。
この監督の決断に対してネットでは賛否両論だが、私は敢えて反対せざるを得ない。「佐々木の将来のため」といえば聞こえは良いが、高校野球は有望選手一人のものではない。ベンチ入り、いやベンチにも入れなかった選手も含めて部員全員のものだ。
最近は有望選手が出ると報道陣だけでなく、日米のプロのスカウトが注目して加熱し過ぎるのも問題だが、『有望選手の将来より部員全員の思い』を優先すべきだ。現に、佐々木自身も投げたかったと口にしている。現有戦力でベストを尽くす気持がないなら監督の資格は無いとさえ思っている。
● 大船渡高校の今大会の戦いぶり
まず、今大会の大船渡高校の戦いぶりと佐々木朗希の投球について調べてみる。7月11日開幕の高校野球岩手大会は一日雨で順延があり、ノーシード2回戦から出場した大船渡高校は15日の試合が一日延びて16日に初戦を迎える。
•7月16日 2回戦
遠野緑峰 0━14 大船渡
(5回コールド)
佐々木朗希 2回→大和田
•7月18日 3回戦
大船渡 10━0 一戸
(6回コールド)
佐々木朗希 6回
•7月21日 4回戦
盛岡四 2━4 大船渡
(延長12回)
佐々木朗希 12回 194球
•7月22日 準々決勝
久慈 4━6 大船渡
大和田→和田
(延長11回)
•7月24日 準決勝
大船渡 5━0 一関工
佐々木朗希 9回 129球
•7月25日 決勝
大船渡 2━12
佐々木朗希 登板無し 柴田
今大会の佐々木の投球成績
29回 9安打 2失点 435球
● 監督は勝つためのベストを尽くしたのか?
まず、過密日程を言う人もいるが、今年の岩手大会は7月11日開幕の後に12日と19日雨で順延になっていて、大船渡高校は大会6日目の16日に初戦の2回戦、中1日置いて18日に3回戦、中2日置いた21日に4回戦、22日に初めての連戦で準々決勝、休養日を挟んで24日に準決勝、25日連戦で決勝。
高校野球としては特に過密日程とは言えず、準決勝の前には休養日を設けている。この日程を過密というなら高校野球に参加する事は出来ない。大船渡高校•国保陽平監督(32)も最初は力のあるエースを抱えた学校が常套とする起用方法で佐々木朗希を使っていた。初戦の2回戦では本番の雰囲気を味わわせるために先発させて、味方が大量点を取った2回で大和田に代えている。
3回戦はやはり先発で起用して6回コールド勝ち。誤算は4回戦だったと思うが、相手の盛岡四は投打にまとまった好チームで、大船渡が6回2点先取したものの9回裏に反撃されて同点に追い付かれ、延長12回勝ち越したものの佐々木が12回194球を投じてしまう。
さすがに、連戦となった準々決勝は前日194球投げた佐々木を使う訳には行かず、大和田→和田の継投で苦しみながらも延長11回サヨナラ勝ちをおさめる。そして、中1日置いた24日の準決勝は佐々木の好投で5━0と快勝。しかし、実はこの日試合前佐々木は違和感を覚えて大会本部の医療班に相談していたという。しかし、この日は先発で起用して3回までに4点リードする展開にも国保監督は9回まで投げさせている。
そして迎えた決勝戦。前日佐々木は「ここで負けたら1回戦で負けたのと変わらない」と、翌日のマウンドに立つつもりでいた。が、先発を任されたのは今大会初登板の柴田。発表と同時にスタンドが一瞬、ざわついたのも想像に難くない。柴田の実力がどのくらいなのか分からないが、いきなり決勝戦のマウンドに今大会初登板で立つメンタル面を監督は考えたのだろうか。仮に佐々木が投げないとしても、準々決勝で活躍した大和田→和田の継投という選択肢はなかったのか。
これに関しても、「二人の健康面を考えた結果」というニュアンスの談話を残している。しかし、二人は準々決勝から中3日のマウンドになる。二人揃って体調不良とも思えないが……。
スタンドからは、「甲子園に行く気があるのか!」という厳しい野次も飛んでいた。そして、沿岸部の大船渡から2時間以上かけて応援にきた市民や父兄からも、「こんな終わり方って、ありますか……」という、力ない声が聞こえていた。
「状態が悪い訳ではなかったが、3年間で一番壊れる可能性があると思った。故障を防ぐため」と、国保監督は言う。しかし、佐々木自身は投げる気でいた上、壊れる可能性……という勘で判断されたのでは、「地元の仲間達と一緒に甲子園に行きたい」と、大阪桐蔭の誘いまで断って大船渡から甲子園を目指した佐々木と、その仲間達の思いはどうなるのか監督は考えた事があるのだろうか……。
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