
大の里絶対と思われていた大相撲九州場所は安青錦の初優勝で幕
初土俵から僅か13場所目での優勝と、付け出し以外で史上最速14場所での大関昇進
意外な形で幕を閉じた大相撲九州場所のリポート
驚異の新星誕生・安青錦
ウクライナに生まれて7歳から相撲を始めた安青錦(ヤブグシシン・ダニーロ)。ジュニアで活躍し、大相撲の土俵に立つのが夢となっていたが、ロシアのウクライナ侵攻により兵役年齢に達する前に来日。この辺は同じ年頃の人達が戦地で戦っている時に、という批判がないでもない。
しかし、それだけ相撲に体する情熱があったという事なのだろう。来日の際には世界ジュニア選手権で知り合った関西大学相撲部の主将宅に居候して、大学や高校の相撲部の練習に参加。その時、報徳学園の監督が安治川親方(元関脇安美錦)に紹介し、その後入門。
レスリングでもウクライナの大会で優勝する程の実力者だった安青錦。その特性を生かした低い体勢からの攻めで序の口から三段目までは全て一場所で通過。6場所で幕下を通過して関取になると、十両から今場所まで7場所連続二桁勝利で大関昇進という、大の里にも劣らないスピード出世。
結局、入幕後6場所目、初土俵から14場所目で大関昇進という最速記録(付け出しを除く)。今場所は一度も勝てていない大の里の休場にも助けられたが、大力士になれる人にはそういう強運も必須条件。大の里一強の可能性も言われていたが、ライバルとなって大安時代となるのか注目したい。
怪我に泣いた本命大の里
序盤から圧倒的な相撲で9連勝とした大の里。もう一人の横綱豊昇龍が2敗していただけに、目標は全勝優勝しかないと思わせたが10日目以降相撲が乱れた。10日目義ノ富士に一方的な相撲で土俵外に運ばれると、翌11日目は不振で既に負け越しが決まっていた隆の勝にも敗れて連敗。
その後、王鵬、安青錦の関脇陣に勝って豊昇龍と共に2敗を堅持。ところが、その安青錦戦で左肩鎖関節脱臼していた事が判明。翌14日目はその怪我で攻めが見られず大関琴桜に敗れて3敗。豊昇龍、安青錦と3敗で並んでいたが、千秋楽に休場が発表された。
前々回、大の里の強さは相撲内容だけでなく、怪我や故障しない体にもあると述べたが無念のリタイア。脱臼というとクセにならないかと心配だが、一日も早く治して再発しない体を作って復帰してほしい。豊昇龍だけでなく、安青錦という新たな敵が待ち受ける来場所に万全を期してほしい。
優勝決定戦でV逸豊昇龍
大の里の休場で、もし安青錦が琴桜に敗れた場合は優勝というチャンスが巡ってきた横綱豊昇龍。結局、安青錦が3敗を保って先場所に続く優勝決定戦。しかし、立ち合いは五分だったが、その後積極的に攻めていたのは安青錦。
素早い動きは豊昇龍の持ち味だが、安青錦にスピード負けして後を取られての送り投げで土俵に這わされた。これで、対安青錦戦は4戦全敗という屈辱的な対戦成績。体型的には自分より身長、体重ともに少し小さな相手。立ち合いの鋭さやスピードでは負けてはいないはず。
この一方的な対戦成績の理由を考えて工夫するしかない。圧倒的破壊力を誇る大の里と、粘り強い上に低い姿勢からの自分の相撲の型を持っている安青錦。二人の間に埋もれない為には自分を見つめ直し、己の長所を更に伸ばし、足りない部分を補うしかない。このままでは埋没しかねない。
復調へ来場所正念場琴桜
先場所、途中休場の原因となった右膝の怪我から、ロンドン公演も休場して回復に努めた大関琴桜。手探り状態からの相撲で序盤は2勝5敗と苦戦。明らかに膝の影響で攻守共に持ち味が発揮されていなかった。それでも、中盤は5連勝として少しずつ調子を取り戻した感じ。
14日目は前日怪我をしていたとはいえ、横綱大の里を相手に両回しを引いて寄り切り存在感は示した。ただ、初場所の綱取りから始まったこの一年は2桁勝利なしに終わってしまった。まずは、これからの巡業でしっかり稽古を積みながら右膝を回復する事が全て。
最も早く綱取りに挑みながら、豊昇龍、大の里に先を越された上に、新大関安青錦が並んできた。28歳は最も力が出る年齢と言われている。もう一度、初心に帰って心技体全てを磨かなければ3人の後輩に取り残されてしまいかねない。来年は勝負の年として、再び輝きを取り戻してほしい。
