もう下克上とは言えないのかもしれない。毎場所のように平幕力士が優勝戦線をリード
春場所は110年振りという尊富士の新入幕優勝に湧いたばかりというのに
今場所は角界入りから大器と目されていた新小結大の里の史上最速7場所目の優勝
休場者続出で始まったシラケかねない場所を救った大の里を中心に夏場所のリポート
大混戦の夏場所優勝争い
1横綱4大関で始まった大相撲夏場所。いきなり初日から看板力士の5人が全員土という衝撃のスタート。そして、早くも2日目から横綱照ノ富士と大関貴景勝は休場。その後も休場者続出という異常事態。
大関陣では祖父の四股名を継いだ琴櫻こそ何とか盛り返したが豊昇龍、霧島は連敗。特に霧島は立ち直れず途中休場で大関陥落。序盤は宇良、元大関御嶽海、今場所十両から復帰した宝富士がトップという、最近恒例になった平幕力士が逃げる展開。
10日目時点で2敗で大の里、湘南乃海、宝富士の3人がトップ併走。3敗の琴櫻、大栄翔、御嶽海、琴勝峰、欧勝馬までが優勝圏内。しかし、星の潰し合いが続き12日目には2敗がいなくなり、3敗4人に4敗7人の大混戦。
3敗4人の中で琴櫻と大の里の争いかと思われたが、14日目に琴櫻が阿炎に敗れ大の里が単独トップ。千秋楽は大の里が阿炎と対戦。負ければ4人による優勝決定戦というプレッシャーの中、一方的に阿炎を押し出して史上最速の優勝。
大の里時代の到来なのか
先場所、尊富士が達成した所要10場所目での初優勝をすぐに塗り替える7場所での優勝を果たした大の里。怪我で不在の尊富士と違い、入幕から11勝、11勝、12勝と3場所連続2桁勝利は実力の証し。
大の里の強さは圧倒的な破壊力の突き、押しにあるが、今場所は回しを取った相撲にも進境が見られる。6日目、同じ右四つで上手を取った琴櫻を一方的に寄りきった相撲には、底知れぬ潜在能力が感じられた。
そして、何よりも素晴らしいのは師匠の元横綱稀勢の里を彷彿させるような外連味のない立ち合い。相手を焦らすかのように時間を掛けたり、自分の呼吸だけで立つ力士が多い中、駆け引きなく先に手を着いての真っ向勝負。
まだ角界入りして7場所。まだまだ、経験の浅い点は否めないが、それだけに底知れぬ可能性を秘めている。照ノ富士が故障の中、渡り合えるのは琴櫻ぐらいか。大きな怪我さえなければ、早くも【大の里時代】の到来の予感が……。
巻き返し出来るか上位陣
前途洋々の大の里に対して、後塵を拝した上位陣。もちろん、このまま大の里の躍進を指を咥えて見てるはずもないだろう。しかし、故障とはいえ初日に完敗した照ノ富士には過大な期待は懸けられないのかもしれない。
待ったを掛ける一番手は琴櫻。場所前に下半身の違和感があり、もたつく相撲が多かった。しかし、受けながら攻めるのは琴櫻の真骨頂。無理に前に出ず、相手を見ながら自分の体勢を作る今の相撲が完成すれば【琴大時代】が見えてくる。
霧島が大関陥落、貴景勝は来場所カド番の中、琴櫻以外で対抗出来るとしたら豊昇龍か。大の里に3連勝というのも頼もしい上に、ほぼ同世代の25歳。投げに拘らず、力強さとスピードを活かした前に出る相撲を磨いて立ちはだかるか。
また、同世代の力士の台頭も期待したいところ。速い攻めで押し出した24歳平戸海。敗れはしたが見所のあった21歳熱海富士。先場所大の里に完勝して今場所休場の尊富士もいるが、現時点では差がついて巻き返しは至難の技か。