フー……、試合が終わった瞬間深夜の部屋が深いため息に覆われた。これが『芝の王者』の実力なのか……。錦織圭の4回戦までの戦いぶりと、37歳というロジャー•フェデラーの年齢を考えて、29歳という充実期を迎えた体力と、今大会で得た芝コートへの自信から錦織のチャンス到来と思っていた。
しかし、またノバク•ジョコビッチ、ラファエル•ナダル、そしてロジャー•フェデラーという3強の高くて厚い壁に跳ね返されてしまった。深夜の深いため息は、錦織にはこの壁を乗り越えられる時が来るのだろうか……、という漠然とした不安からだったのかもしれない。
● フェデラー戦の敗因は
第1セットは錦織圭の素晴らしい攻撃が見られた。『屈指のショットメーカー』と言われるその真髄を発揮して、鋭いリターンからフォアハンドの逆クロスでロジャー•フェデラーをコートの外に締め出し、強烈なタウン•ザ•ラインで得点を奪っていく。『芝の王者』フェデラーを右往左往させて圧倒していた。
完全に錦織のペースで「3強の一角を切り崩した」と思った刹那、第2セットで『芝の王者』が牙を剥く。鋭いファーストサーブが決まり出すと、力無く返ってくる錦織のリターンはアグレッシブなネットプレーやパッシングショットで、次々と脇を抜かれていく。サービスゲームはあっという間にキープして、錦織に付け入る隙を与えない。
錦織のサービスゲームでも、鋭いリターンで切り返し早い仕掛けと思い切った攻撃で、次々に得点を奪っていく。2回戦79%、3回戦85%と今大会自信を見せていたファーストサーブからのポイント獲得率も、57%という低い数字に押さえられた事からも、如何にフェデラーのリターンやショットが冴えていたかが分かる。
特に、第2セットと第3セットはフェデラーの縦横無尽の速い攻めになすすべも無く、4回戦までの錦織とは別人のように無抵抗に次々とポイントを奪われているような気がした。第3セットの終盤にフェデラーのパフォーマンスがやや落ちて、ワンブレークダウンの錦織にチャンスが訪れたが、4━5で迎えた10ゲームのチャンスにバックハンドのリターンが大きくはみ出して反撃の芽が摘まれてしまう。
結果的には4━6、6━1、6━4、6━4だったが、第2セット以降はフェデラーのサーブが良くて、サービスゲームは短時間で決まっていたので、錦織が圧倒されていたというイメージが強く完敗と言わざるを得ない試合だった。
● 3強を乗り越える日は来るのか
今大会も結局ベスト8で敗退した錦織だが、これで昨年の全英オープンから四大大会でベスト8、4、8、8、8と5大会連続の準々決勝以上の進出を果たしている。現在のランキングは7位だが実績的には3強に次ぐ存在と言っても過言ではない。その錦織に求められるものは、既に30代になっている『3強の壁』を乗り越えて4大タイトルの制覇だろう。
錦織の4大タイトルの成績は、【全豪オープンベスト8•4回、全仏オープンベスト8•3回、全英オープンベスト8•2回、全米オープン準優勝•1回、ベスト4•2回】と、なっている。一目瞭然だが、ハードコートで行われる全豪オープンと全米オープンこそが、錦織の最も得意とする庭といえる。
一方、3強と言われるジョコビッチ、ナダル、フェデラーの4大タイトルの優勝回数を見てみる。
•ジョコビッチ 全豪7回、全仏1回、全英4回、全米3回
•ナダル 全豪1回、全仏12回、全英2回、全米3回
•フェデラー 全豪6回、全仏1回、全英8回、全米5回
3強全員がグランドスラムを達成しているが、各人に特徴があって全豪オープン7回制覇のジョコビッチは、『ハードコートの王者』、全仏オープン12回制覇のナダルは、『赤土の王者』、全英オープン8回制覇のフェデラーは、『芝の王者』と言われるのが納得出来る成績として現れている。
錦織が5大会連続ベスト8以上と充実期を迎えているが、その最後に敗れた相手は昨年の全米オープンから見ると、全米•全豪がジョコビッチ、全仏がナダル、そして今大会がフェデラーと、全て3強各人が得意とするコートで散っている。しかし、錦織の実績からして最も得意とするのはハードコート。
とりわけ相性が良いのは全米オープン。ハードコートといっても、全米に限っては3強全てが複数回の優勝がある得意舞台。この全米オープンで錦織が簡単に敗れるようなら、錦織悲願の4大タイトル獲得は可能性が極めて低くなり、最悪の場合勝てないまま現役引退もあり得る。そのつもりで、今年の全米オープンには選手生活を懸ける覚悟で、3強に向かって欲しい。
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