コロナウィルス感染によって、あらゆるスポーツ、イベントが中止、延期に追い込まれる中、無観客とはいえ一週も休む事なく続けられてきた中央競馬(JRA)。他の公営競技も概ね似たような状況で開催されてきたが、地上波で唯一毎週放映されるだけに、JRAの注目度は別格。
そのJRAも、最近は外国人騎手の通年免許取得や短期免許制度を利用した来日が可能になり、常に外国人騎手が日本で騎乗している状況。日本人騎手のトップクラスなら外国人騎手とそれ程技術的な差はないはずだが、馬主も調教師も外国人騎手というだけで乗り馬を与える状況が続いている。
当然、割を食うのは日本人騎手。レース数は限られている以上、外国人騎手が騎乗した分だけ日本人騎手の騎乗機会が奪われる事になる。当初は実績のない若手の騎乗機会激減が心配されたが、最近は実績を持った一流騎手にも影響が現れている。正に『百害あって一利なし』だが、JRAは改める気はないらしい。
● 福永祐一の悲運
現在、2300勝以上をあげてダービーをはじめGⅠ27勝を誇る福永祐一も例外ではなかった。2011年、2013年とJRA最多勝というトップジョッキーの座を不動のものにした福永。2015年も独走でリーディングの座を走っていた。
しかし、その2015年3月からMデムーロとCルメールの両騎手が通年免許を取得した事で状況が一変。当時、福永をはじめ武豊、岩田康成、浜中俊等の有力騎手は全て関西所属だったがデムーロ、ルメールの二人が共に関西所属になったため、更に関西の騎手事情は厳しさを増す。
競馬の騎手は不公平な稼業だ。他の公営競技の競輪、競艇、オートレースは各選手が出走する回数はほぼ同一機会が与えられる。しかし、競馬は馬主、調教師等が騎乗して欲しい騎手に依頼してはじめてチャンスが生まれる。従って、一日全レースに騎乗する騎手がいる反面、全く騎乗機会のない騎手も出てくる。
それでも、2015年リーディング争いを独走していた福永に落馬負傷の悲劇が訪れる。その怪我を乗り越えて翌年復帰した福永だが、休養中に流れが変わっていて騎乗機会も強い馬に乗れるチャンスも減少してしまった。
● 福永祐一の逆襲
普通の騎手ならこの時点で成績を下げて並の騎手に成り下がってもおかしくない。しかし、「とにかく賢い。自分に無いものを知っていて工夫を凝らして補っている」「本当に頑張っている。頭が良くて自分をプロデュースする能力に長けている」「考えながら黙々と頑張っている。諦めない精神力の強さがある」と、競馬関係者に絶賛される福永の不屈の精神。
2016年以降はルメール、デムーロ、戸崎圭太に押されてリーディング4~5位が定位置になったが、それでも年間勝利100勝以上は続ける。2019年には10年連続100勝以上という、武豊でさえ成し遂げられなかった偉業を達成。2018年にはワグネリアンで17番枠の不利を克服して念願のダービー制覇。
競馬関係者やファンから絶賛されたダービー制覇に「騎手人生の中で今が最も上手いと思っている」と、自信を持った福永だが、それでも良い馬が回ってくるのが少ない状況は変わらない。今年はルメール、川田、武豊、松山弘平に次ぐリーディング5位に甘んじてきた。
しかし、二冠馬コントレイルとの出会いが更に福永を進化させる。皐月賞での絶望的な位置からの落ち着いた騎乗。ダービーでの人馬一体の自信満々の騎乗……。そして、恵まれない騎乗馬にもかかわらず無類の勝負強さで存在感を発揮。6月14日は一日5勝を挙げるなど騎乗馬に恵まれる状況に戻りつつある。
今の福永の騎乗技術に以前のような騎乗馬に恵まれる状態が戻れば、正に鬼に金棒。今後、無敗の三冠馬を目指すコントレイルと共に更なる進化を遂げ、再び飛躍の道のりを歩み始める福永祐一から目が離せない。