夏の甲子園大会が大阪代表履正社の優勝で幕を閉じ、その後高校日本代表によるU18W杯も予想外の5位に終わり、後は甲子園大会で活躍した高校が出場する国体を残すのみとなった。
そんな中、高校三年生の有望選手の目は既に10月17日に行われる『2019プロ野球ドラフト会議』に向けられている。そのドラフト会議の目玉は星稜高校•奥川恭伸と大船渡高校•佐々木朗希なのは衆目の一致するところだろう。
しかし、過去にもドラフト会議前にライバル視された選手達はいるが、今年の二人は異例のライバルと言っても過言ではないだろう。決勝で敗れたとはいえ、それまでは圧巻の投球で甲子園の話題を独り占めした奥川。一方は岩手県予選の決勝でマウンドに立たないままに甲子園を逃した佐々木。この対照的な二人のライバル物語を紡んでみる。
● 抜群の野球センス奥川恭伸
春の代表候補合宿に招集され、佐々木朗希(大船渡)、及川雅貴(横浜)、西純矢(創志学園)と共に『高校四天王』と呼ばれた奥川恭伸(星稜)。この中でただ一人夏の甲子園大会出場を決め、優勝候補の筆頭に挙げられていたが、その名に違わぬ活躍で準優勝投手になった。
8月7日の1回戦、旭川大高戦は相手投手能登嵩都との投げ合いになり2回表の1点を守り切った奥川が、最速153キロの直球と切れのある変化球で9回を投げ抜き、3安打9奪三振の完封勝利。
2回戦は先発しないでベンチスタート。星稜は6回表まで5━0とリードしていたが、立命館宇治はその裏反撃。2点を返してなお2死走者2人を出した所で奥川が登板。奥川は今野優斗に左前適時打を許して2点差に迫られたが、次打者を抑えてピンチを切り抜ける。その後、奥川は8回まで投げて追加点を許さず自己最速154キロでマウンドを降り、6━3で3回戦進出。
3回戦は強敵智弁和歌山が相手。前回の救援から中3日の奥川は先発し、9回を終わって1━1の同点。試合は延長14回までもつれた末、6番福本の劇的なサヨナラ3ランで星稜が勝利。奥川は14回をわずか3安打、奪三振23、失点1の完投。
準々決勝は奥川を温存したが、前半から打線が爆発。東北勢初優勝を狙う強豪•仙台育英に22安打を浴びせて17━1の快勝。
奥川にとって延長14回の智弁和歌山戦から中2日となった準決勝は中京学院大中京が相手。この日も打線が好調で7回で9━0のリード。奥川は立ち上がり先頭打者にヒットを許したが、その後7回2死まで一人のランナーも許さぬ快投で、8回からは左翼の守備に退き、そのまま星稜が決勝に勝ち上がった。
決勝では疲れのせいかそれまでの球の切れがみられず、今大会初の自責点を許すなど11安打5点を許して履正社に5━3で敗れたが、高校ナンバーワン投手は奥川と全国に名を知らしめた。
● 投げない怪物佐々木朗希
今夏物議を醸した岩手県予選決勝。最速160キロ超と全国のファンから注目を浴びる佐々木朗希がマウンドに上がる事なく、一方的に花巻東に敗退した。佐々木は4回戦延長12回194球投げ、準々決勝はベンチで味方の勝ちを見届けて満を持して中2日の準決勝を完封勝利。
翌日の決勝の先発メンバーにその名前が無かった。大船渡高校•国保陽平監督は「状態が悪い訳ではなかったが、三年間で一番壊れる可能性があると思った。故障を防ぐため」という、意味不明な説明で三年生の甲子園の夢を摘んでしまった。
この件については、試合後賛否両論が渦巻いてプロ野球関係者から一般のファンまで百家争鳴の状態によるなった。スタンドのファンからは「甲子園に行く気があるのか!」という怒声が飛び交い、大船渡から2時間以上かけて応援にきた市民や父兄からも「こんな終わり方って、ありますか……」という、力ない声が漏れた。
結局、華々しい活躍で甲子園を湧かせた奥川とは対照的に、佐々木と大船渡高校ナインは早過ぎる終戦を迎えてしまった。佐々木は溢れる程の才能を持ちながら一度も甲子園のマウンドを踏む事なく、高校生活を終えてしまったのだ。
● 差の付いたライバル物語
高校ナンバーワン投手奥川と、一度も甲子園のマウンドを踏む事なく終わった佐々木。今更ライバルと言えるかは微妙だ。いかに素質に恵まれたとしても、大きな舞台に上がれずに終えた者と、甲子園のマウンドでプレッシャーに耐えて成長した者。その差は歴然であろう。
その後、二人はU18W杯の高校日本代表として行動を共にするが、ここでも格の差が出てしまう。
スーパーラウンド第1戦に先発した奥川はカナダを相手に今大会初先発。7回を投げて2安打1失点。奪三振は18という驚異の数字を残した。力強いストレートとスライダー、フォークを緻密なコントロールで投げ分けてカナダ代表を相手にしなかった。
一方の佐々木は翌日韓国戦に先発したが、壮行試合で潰れた右手中指のマメが悪化してたった1イニングス投げただけでマウンドを降りた。報道陣からは揶揄も込めた『投げない怪物』の声も……。故障だから仕方ないという声も聞かれるが、この夏甲子園のマウンドで成長した奥川と、投げる事なく夏を終えた佐々木の成長の差は歴然。
『ライバル物語』と題したが、如何に高いポテンシャルを持っていたとしても、投げる事なく棒に振った夏の差をひっくり返すのは容易ではない。プロ入り後マウンドで顔を合わせる時があったとしたら、その時の立ち位置に興味はあるが……。
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