8月21日阪神の藤浪晋太郎投手(26)がヤクルトを相手に、2018年9月29日以来、実に692日ぶりの白星を手にした。ポテンシャルは同期の大谷翔平に匹敵するものがあり、プロ入り当時は大谷以上の評価を得ていた。投手としての登板も初勝利も大谷より早く1年目から二桁勝利を上げるなど、実績は大谷をはるかに凌いでいた。
デビューから3年連続二桁勝利をあげて一躍阪神のエースに君臨した藤浪晋太郎。その藤浪が2017年から徐々に崩れていき、昨年2019年にはわずかに1試合の登板に終わり、プロ7年目にして屈辱の未勝利に終わってしまう。藤浪に何が起こったのか……。約2年ぶりの勝利をあげた藤浪の光と影を追ってみる。
● 前途洋々の4年間
2013 10勝6敗 防御率2.75
2014 11勝8敗 防御率3.53
2015 14勝7敗 防御率2.40
2016 7勝11敗 防御率3.25
2012年春の選抜高校野球大会と夏の全国高校野球選手権大会で、エースとして『春夏連覇』を果たして鳴り物入りで阪神にドラフト1位で入団。2013年開幕3戦目でヤクルト相手にプロ初登板を初先発で果たす。4月14日にはDeNA戦でプロ初勝利。その後も白星を積み上げて10勝6敗の好成績。ヤクルトの小川泰弘が16勝4敗と断然の成績を残したので、『新人王』には選ばれなかったがセリーグから連盟特別表彰として『新人特別賞』を受ける。
2014年はやや好不調の波が見られ、プロ初完投や一試合13奪三振等の好投もみられる反面、わずか2回でKOされる乱調もみられた。その結果、投球回数、奪三振等は前年を大きく上回ったが、防御率は3.53と1年目より下げてしまう。
2015年は藤浪にとってキャリアハイとも言える充実した一年になり、阪神のエースとして完全に一本立ちし、前途洋々と思われた年になった。14勝、防御率2.40、奪三振は221を数えてセリーグ奪三振のタイトルを獲得。7完投、4完封と正にエースの働きを示した。
順風満帆の藤浪に不調への足音が忍び寄ったとしたら、プロ入り4年目の2016年だろう。シーズンオフから右肩の炎症に悩まされ、オープン戦も不調のままシーズンイン。が、3戦3勝と好スタート。しかし、その後6試合勝利に見放される。その後も一進一退の投球が続き、安定感を欠く。特にコントロールが定まらず立ち上がりから四死球を絡めて失点する傾向が見られ、結局7勝でシーズンを終えて入団以来続く二桁勝利が3年で途絶えてしまう。
● 暗黒脱出への4年
2017 3勝5敗 防御率4.12
2018 5勝3敗 防御率5.32
2019 0勝0敗 防御率2.08
2017年はWBC日本代表に選出されて調整不安が懸念されたが、シーズン序盤は3勝3敗、防御率2.66とまずまずの成績を残したが、36四死球という制球難と平均投球回数が6回を満たさないという理由で、登録を抹消される。この当時の首脳陣の悪判断が藤浪を2年近く勝利から遠ざかせる要因となった。その後は一軍復帰しては四死球を与えて登録抹消の繰り返しになり、プロ入り後最低となる3勝でシーズンを終えた。
このシーズンにかける思いの藤浪の2018年。6月15日に約1年ぶりの勝利を挙げるが、依然制球難に苦しみ一軍と二軍を行ったり来たり。シーズン終盤に再昇格して9月16日から3連勝して、ポテンシャルの高さを再認識させ、プロ通算50勝を達成。来シーズンの完全復活を期待される。
しかし、期待された2019年はオープン戦途中から二軍落ちをして、プロ入り初の開幕二軍スタートとなり、8月1日の中日戦でシーズン初登板初先発したが、4回途中1失点で降板すると何故か再び二軍。それ以降、一軍に呼ばれる事はなく初めての一軍未勝利に終わる。
そして、コロナウイルス禍で迎えた今シーズン。自らコロナウイルス陽性。更に、練習に遅れて二軍落ちする等多難なシーズンを予感させたが、今シーズン5度目の先発の8月21日ヤクルト戦を7回途中4失点で692日ぶりの勝利。「長かった。ちょっと楽になれるかな」と、安堵の笑みを浮かべた。
制球難に苦しめられた2016年頃から体を作り直し、何度も投球フォームを変え「苦しい事が多かった」と、もがきにもがき抜いた。「人の痛みが分かるようになった。誰かの失敗にどうこう思わなくなった」と、精神面での成長も自覚。「一つ勝っただけで喜んでもらってるようじゃ駄目なんで」。苦しみ抜いてどん底から這い上がった藤浪。一回り大きくなって甦った藤浪晋太郎の第2章が、今幕を開ける。