２０代後半から上の年代の人達には『ハンカチ王子』と聞いて知らない人はいないのではないだろうか。１００年以上続く高校野球でも特別な選手の一人といえるだろう。２００６年夏の甲子園決勝戦、早稲田実業のエースとして、田中将大を擁する駒大苫小牧と延長１５回１対１で決着付かず再試合。
翌日の再試合でも熱戦を繰り広げ、３点リードの９回表無死３番中澤にツーランホームランを打たれて１点差に詰め寄られる。４番、５番を討ち取ってニ死ランナーなしで打者は田中。一発同点を狙う田中を空振り三振に抑えて優勝。その後、マー君こと田中将大は楽天一位指名でプロへ。一方のハンカチ王子斎藤佑樹は早稲田大学に進学して二人の道は別れる。
早稲田大学の斎藤佑樹
楽天に入団した田中将大と別の道を歩んで早稲田大学に入学し、野球部に入部した斎藤佑樹。２００７年、一年生の春の東京六大学リーグ東大戦で先発。８０年ぶりの一年生春の開幕戦勝利をあげる等の順風満帆な一年。春、秋のリーグ戦優勝と全日本大学選手権制覇。春秋連続ベストナイン選出の活躍。
２００８年春のリーグ戦、４季連続優勝を逃した早稲田大学。秋季リーグは斎藤の自己最多となる７勝の活躍で２季ぶりの優勝。３回目のベストナインを初めての満票で受賞。しかし、翌２００９年は春４勝２敗、秋３勝２敗で、チームも優勝を逃して３年生を終える。リーグ戦終了後第１００代主将に就任。
最終学年となった２０１０年。秋のリーグ戦早稲田大学と慶應義塾大学が同勝率で終え、５０年ぶりの早慶による優勝決定戦。先発した斎藤は８回途中までノーヒットノーランの好投で優勝に貢献。その後、明治神宮大会も早稲田初優勝に貢献し、主将として最後のリーグ戦と合わせて有終の美を飾った。
片鱗を見せた斎藤佑樹
結局、早稲田大学４年で３１勝１５敗、防御率１．７７の好成績で終えた斎藤はドラフト会議で日本ハムに１位指名されて入団。２０１１年４月１７日ロッテ戦に先発。５回４失点（自責点１）でプロ初登板初勝利。その後、左脇腹の故障などに苦しみながら、６勝６敗防御率２．６９とまずまずの成績を残して一年目のシーズンを終えた。
２年目は開幕投手に指名されて、西武を相手に９回１失点で自身初の完投勝利で重責を果たす。４月のオリックス戦で初完封など、『ハンカチ王子』の片鱗を見せて前途は明るいように見受けられた。しかし、６月６日の広島戦を最後に、次の登板から全く勝てなくなってしまう。
故障でもないのに６戦連続勝利から遠ざかる不振。再調整の二軍でも打ち込まれ１勝５敗。９月に一軍復帰して中継ぎを経て楽天戦に登坂。５回をもたずに６失点で黒星。結局、５勝８敗でシーズン終了。シーズンを通して投球フォームが決まらず、夏場から肩に違和感を覚えていたという。
故障に泣いた斎藤佑樹
最初の２年間で曲がりなりにも投球回数１００イニング以上続けて、１１勝１４敗と実績を残した斎藤。しかし、その後は故障との戦いに明け暮れ、一軍登坂の機会が失われていく。前年違和感があった右肩痛で２０１３年の一軍登坂は１試合のみ。２０１４年に２勝をあげて復活の兆しも見えたが登坂６試合。
２０１５年以降も栗山英樹監督は復活を信じてチャンスを与えてきた。故障は癒えているように見えたが、不振から脱出する事は出来ずに５年間で２勝１０敗。２０２０年には一軍登坂なしに終わり、右肘の故障。結局、この怪我から結果を残せずに引退を決断。
高校時代に涙を呑んだ田中将大は日本のエースから大リーガーになり大活躍。それと比較すると斎藤は大学時代はともかく、プロ入り後は期待外れに終わった。確かに、故障に負けたとも言えよう。しかし、田中もそうだが投手はなにがしかの故障に悩まされ、そこから再起して更に大きくなる選手もいる。
故障から這い上がれなかった斎藤佑樹は、ある意味勝ち組ではなかったのかもしれない。しかし、１５勝２６敗の大学卒業の選手が１１年も在籍出来たのは、人気、知名度だけではない何かがあったからだろう。「ファイターズだったり、自分が育った環境に恩返ししたい」という斎藤。挫折したからこそ学んだ事があるはず。将来、指導者としてマー君と相まみえるシーンを期待したい。お疲れ様でしたハンカチ王子。
