８月４日行われた第１回札幌競馬４日目でクリストフ•ルメール騎手（４０）が、史上最多タイ記録となる１日８勝を挙げた。この記録は２００２年１２月７日阪神競馬場で武豊騎手、２０１６年１１月１６日東京競馬場でルメールが達成していて史上３度目。同一騎手が２回記録するのはもちろん史上初の快挙。
更に第５レースで２着に入っていて、史上９度目、ルメール自身３度目となる一日最多連対９回のタイ記録も達成した。
● ルメール快挙の要因
まず最初に言いたい事は騎手稼業は不公平であるという事。競馬がスポーツかただのギャンブルかは争論のあるところではあるが、昔の裏寂れた博打場というイメージは無く、現在は老若男女を問わずに週末のレジャー、スポーツとして認知されている。
そのスポーツとした場合、どんな競技でも選手は同じ条件で戦い勝敗を決する事になる。これは、他の公営競技である競輪、競艇、オートレースでも同じ。が、競馬だけは騎手の騎乗回数は公平に同じレース数に決まっていない。あくまで、馬主や調教師が各騎手が契約しているエージェントを通して、毎週どの馬に騎乗するかを契約する事になる。
したがって、腕の良い騎手には強い馬が集まるし、依頼数も増えるので一日の騎乗数も強い馬に乗る機会も増えてくる。反面、成績の上がらない騎手には強い馬も騎乗依頼も舞い込む事は少なくなる。現在、ＪＲＡ（日本中央競馬会）には１４０人の騎手が登録されているが、リーディング上位の川田将雅、クリストフ•ルメール、戸崎圭太、武豊、福永祐一等は平均して一日７～８レース騎乗するが、下位の騎手は１日２～３レース、日によっては全く騎乗依頼が無い日もある。
８月４日のルメールはこの日の１２レース全てに騎乗依頼があり、しかもその内１０レースが一番人気に推されている馬。『それじゃ、誰が乗っても一日８勝ぐらいは出来るんじゃない』と思われるだろうが、１レースだいたい１０頭から１６頭の馬が走り、それらの騎手全てが勝つ為の秘策を練って騎乗している上に、人気馬はマークされる運命にあるだけにそんなに簡単なものではない。
「今日はたくさん（全１２レース）乗ったので、３勝、４勝くらい勝てると思っていたけど、こんないい日は珍しい。今日は全部いいスタートを決められて、いいポジションで競馬が出来た」と、好条件が揃った事を第一の理由に挙げている。ルメールの言うように出遅れはほとんどなく、後方から差し切った馬もあるがほぼスタートを決めての逃げ、先行からの抜け出しという安定したレースが多かった。
『勝てるから良い馬に乗れる。良い馬に乗るからまた勝てる。勝てばまた良い馬が回ってくる。』全盛期の武豊をこう評した評論家がいたが、今クリストフ•ルメールは当時の武豊に匹敵する程の騎乗技術、信頼感があるからこそ為し得た今回の偉業だろう。
● 快挙の事情と今後のルメール
ただ、今回の快挙にはもちろんルメールの騎乗技術もあったが、恵まれた条件もあった。ここ数年間は夏の札幌競馬場には『雷神』と呼ばれる香港の名手ジョアン•モレイラ騎手や福永祐一騎手が参戦して、この３人で札幌競馬のリーディングを取り合っていた。しかし、今年はモレイラが来日しない上に、例年夏は札幌参戦の福永が今夏は小倉競馬場で騎乗していて、リーディング上位の騎手はルメール以外参戦していない。
その為に、いつも人気馬に恵まれるルメールがこの札幌競馬は特に人気馬が殺到しているという事情もある。むろん、ルメールの好騎乗、信頼感が生んだ快記録に間違いはないが、そのような事情があっての快挙なのも事実ではある。
そのルメール、日本の騎手免許を取得して今年で５年目。１年目は３月からの騎乗、２年目は名手の多い関西所属の為に関東の戸崎にリーディングジョッキーの座を譲ったが、一昨年１９９勝、昨年は２００５年に武豊が記録した年間最多勝利２１２勝を更新する２１５勝をマーク。２年連続でレベルの高い数字でのリーディングジョッキーに輝いたが、今年は前半不調でトップの川田に１９勝差の３位に甘んじていた。
しかし、この日の８勝で戸崎を抜いて川田に１３勝差に迫る８３勝になった。まだ離されてはいるが有力騎手のいない札幌だけにまた固め勝ちが可能で、３年連続リーディングジョッキーの座を目指して川田に挑戦状を叩き付けた。
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