両横綱が早々に土俵から消えた大相撲春場所。もう、ここ数年の当たり前の光景になってしまった横綱土俵入りのない本場所。それを救うのは強い大関の責任だが、『平幕優勝』がトレンド化している状況。長年日の目を観ない力士が、ワンチャンスを掴んで夢にまで見た天皇賜杯を抱くのはそれはそれで感動を呼ぶが、それが当たり前になってはしらける。
鶴竜の引退と白鵬の休場という穴を埋めるのは3人の大関を中心とした白熱の優勝争いと期待したが、3人とも序盤戦で黒星を連ね三大関安泰の日はなかなか現れない体たらく。これでは、またまたお決まりの平幕優勝かという危機を救ったのは、優勝した照ノ富士と序盤戦をリードした高安の元大関の実力者だった。
春場所を救った元大関
不屈の闘志で優勝と大関復帰を飾った照ノ富士。6年前23歳の若さで初優勝を手にした時は正に《大器覚醒》を思わせ、白鵬を脅かす存在になる期待を抱かせた。しかし、両膝の怪我と内臓疾患で序二段まで陥落。
そこから這い上がって関取、幕内復帰。その場所でいきなり平幕優勝。三役に返り咲いてからも13勝、11勝と安定した成績を収め大関復帰を懸けた今場所。前半はムラのある相撲内容で同じ元大関の高安に2差つけられる苦戦。
失速した高安との差は地獄を見た男の違いか。初優勝の重圧から格下に連敗して崩れていくライバルを尻目に、『一日一番』を貫いて逆転した精神力は挫折で得た賜物。以前の傲岸不遜な趣は消え、周囲への感謝を口にする【ニュー照ノ富士】時代が始まる予感。
期待を裏切った三大関
照ノ富士に枕を並べて討ち死にした三大関。正代は悪癖の胸を出す立ち合いの上に、持ち前の力強さが見られず前半から取りこぼして優勝争いから脱落した上に負け越し。パワーを生かすには前屈みで当たる立ち合いが必須条件。改善されない限りは大関陥落もある。
三大関の中で最も期待された朝乃山。高安に敗れたものの徐々に右四つ左上手の形が見られ安定したかに見えたが、終わってみれば10勝止まり。柔軟な足腰と堂々とした体格で素質は随一。力強さも増しているが左上手を速く取る事と、照ノ富士に勝つ事が課題。
かど番で苦しい戦いが予想された貴景勝。一気に相手を持って行く相撲は少なかったが、後半盛り返しての10勝は及第点か。ただ、相手を圧倒する相撲は少なく回しを取られて苦戦。まだ24歳なのだから、上手を取っての寄る相撲も覚えて上を目指して欲しい。
これからの大相撲展望
鶴竜が引退して一人横綱となった白鵬。右膝手術で早くても復帰は7月場所か。36歳という年齢に加えて皆勤した場所は一年前まで遡る。スタミナ、相撲勘に加えて精神面でも追い詰められて復活は厳しい。大横綱の名声に傷をつけない為にも引退を考えるべきか。
来場所からの四大関時代。誰が横綱への一番乗りを果たすのかが焦点になるが、このところの安定感から照ノ富士が最右翼になるが、問題は今場所も痛みが走ったという膝。今は馬力と回しを取っての力強さでもっているが、横への動きのある相手への不安解消が鍵になる。
後の三大関の中では朝乃山。コロナ禍で出稽古が出来ずに苦戦しているが、四大関の中で将来性は一番。相撲スタイルも変える必要はなく、照ノ富士に匹敵する力強さを身に付けるだけ。強いて言えば、稀勢の里の【左押っつけ】のような必殺技を見つければ『照朝時代』の到来か。
この2人に続くのは番付上では貴景勝と正代だが、トップを張るにはもう一度自分の相撲を見直し、変えなければならない。その他では、実力者の高安と大栄翔。高安は後半崩れたように精神面の強化。大栄翔は押し相撲に有りがちな成績のムラが課題。後は若手の台頭を待ちたい。