中国武漢から発症した新型コロナウイルスが世界のスポーツシーンを奪い、瞬く間にスポーツ環境を変えてしまった。野球、サッカー、ゴルフ、テニス等のプロスポーツから、プロ、アマを問わずほとんど全ての競技を中止、延期に追い込んでしまった。
もちろん、日本も例外ではなくプロ野球、Jリーグを始めとするプロスポーツから、社会人、大学、高校の全ての大会は中止、あるいは縮小されてしまう。特に深刻なのは3年間の集大成となる舞台のインターハイ、全国高校野球大会の中止。
そんな中で、選抜高校野球大会に選出された32校を招待して行われた、2020甲子園高校野球交流試合。本来ならトーナメント戦で優勝を争うが、コロナウイルス感染拡大で中止になった選抜高校野球大会の救済の意味で開かれた招待試合という位置付けで、勝っても負けても一試合だけ。
8月10日、11日、12日、15日、16日、17日の6日間にわたって繰り広げられた熱戦を振り返ってみる。
8月10日(月)
大分商 1ー3 花咲徳栄
明徳義塾 6ー5 鳥取城北
2試合共下馬評の高いチームが勝利を収めたが、一方的な試合になる事はなく敗戦校も最後まで食らい付いて1点を争う好ゲームを演出した。特に、第一試合は好投手同士の投げ合いになり両投手共持ち味を生かして、二人共完投して締まったゲームを見せてくれた。大分商の川瀬はいきなり味方のエラーで狂わせられ、四死球の連発で自滅した感じだが、それ以降は打たれながらも要所を締めていただけに諦めきれない初回に終わった。
8月11日(火)
天理 2ー4 広島新庄
創成館 4ー0 平田
明豊 4ー2 県岐阜商
この日も最後まで目が離せない好ゲームが続き、締まった試合になった。特に、天理ー広島新庄戦は逆転されては追い付き、更に勝ち越し、駄目押しと最後まで実力校による一進一退のゲームで、目が離せない展開になった。その中でも、3打数3安打2打点と爆発した広島新庄のトップバッター大可は、一度目の勝ち越し、勝利を決めた駄目押しと活躍が際立っていた。
8月12日(水)
智弁学園 3ー4 中京大中京
鹿児島城西 1ー3 加藤学園
この日の2試合も最後まで行方が分からない好ゲーム。特に、伝統校同士が顔を合わせた智弁学園ー中京大中京。1回裏中京が先頭打者の二塁打を足掛かりに、相手のエラー、暴投に付け込んでタイムリーも続き一挙に3点取って主導権を握る。しかし、4回に智弁学園が反撃。2死球から押し出し、更にピッチャー西村が自ら失点を取り返す2点タイムリーで同点。その後も両校チャンスを作りながらも生かせずに延長戦に突入。規定により無死1塁2塁から始まるタイブレーク。先攻の智弁学園は強行策で三者凡退。その裏、中京大中京のバントに投手がエラー。無死満塁からのセカンドフライを智弁学園の二塁手が落球して呆気ない幕切れ。
8月15日(土)
履正社 10ー1 星稜
磐城 3ー4 国士舘
仙台育英 1ー6 倉敷商
この日は甲子園常連校が登場したが、ハイライトは磐城高校。木村保前監督の試合前ノックが話題になった。今春選抜大会出場が決まった時は監督だった木村が、選抜大会中止後に福島商業に異動してしまう。磐城高校といえば春2回、夏7回の出場を誇る古豪。1971年には夏の甲子園で準優勝を果たしている。ただ、全国各地と同様に野球留学で他県から実績のある選手を入学させる私立高校に押されて、夏は1995年を最後に、春に至っては1974年以来出場出来ていない。実に46年ぶりの選抜大会出場を果たした監督の為に、高野連の粋な計らいで甲子園で元の教え子達に魂のノック。試合以上に感動を与えるドラマだったといっても過言ではないだろう。
8月16日(日)
明石商 3ー2 桐生第一
帯広農 4ー1 健大高崎
鶴岡東 5ー3 日本航空石川
注目は明石商の好投手中森。昨年の春夏共に準決勝進出したチームの原動力となった中森の最後の甲子園はプロも注目の的。その期待に違わぬ力強い投球で桐生第一打線を寄せ付けず、6回まで内野安打1本に抑える。7回死球を足掛かりに初失点。9回には中前タイムリーで2点目を奪われたが最後も低目の速球でセカンドゴロに打ち取ってゲームセット。結局、9回を一人で投げ抜き150キロ前後の直球を軸に5安打、9奪三振、自責点1。本人は2失点に納得いかないようだったが、ドラフト会議で上位指名される逸材。
8月17日(月)
大阪桐蔭 4ー2 東海大相模
智弁和歌山 1ー8 尽誠学園
白樺学園 3ー8 山梨学院
強豪校同士がぶつかった第一試合の大阪桐蔭ー東海大相模。1回裏トップバッター池田のフェンス直撃の二塁打から、一旦は走塁死でチャンスを潰しながらタイムリーで先制した大阪桐蔭。対して7回表四球、ヒットに盗塁を決めて一死2、3塁から神里の右前逆転タイムリーで試合をひっくり返した東海大相模。しかし、その裏すぐに犠飛で同点にした大阪桐蔭は8回裏にも途中出場の藪井の2点タイムリーで勝ち越す。最後はリリーフの松浦が8、9回を被安打ゼロの好投で強豪校同士の最後まで気の抜けない試合を締めくくった。
コロナウイルス禍の中、一旦は諦めかけた甲子園への道。本来のトーナメント戦ではなく、あくまで交流試合という事で一部には盛り上がらなかったという声も聞かれた。しかし、野球だけでなくインターハイで争われる全ての競技の全国大会が中止に追い込まれた中、感染対策にも十分配慮した高野連や甲子園球場の関係者の皆さんの勇気ある行動には敬意を表したい。
また、今回の交流試合は甲子園への道を閉ざされた三年生の救済という一面もあるので、勝負に徹するというよりベンチ入りしたメンバーを出来る限り出場させるという、情の采配も数多く見られてそれが勝敗に影響したケースもあった。また、応援団などが入場出来なかったせいで投手の投げる時のうめき声や、キャッチャーミットに収まるボールの音、鳴り物の無い保護者や控え選手の拍手の応援などがテレビから鮮明に聞こえて、新鮮さを覚えた。本来の学生野球の原点を感じさせた今回の交流試合は、私的には最高の催しとして賞賛したい。