史上初の父子無敗三冠馬コントレイル、同じく史上初の牝馬無敗三冠馬デアリングタクト、更に2年前の牝馬三冠にしてGⅠ8勝アーモンドアイという空前絶後のハイレベルな争いになったジャパンカップ。コロナウイルス禍で入場制限される中、競馬ファンだけでなく社会現象にまでなって全国的に注目されたレースは、1番人気アーモンドアイが直線抜け出して、有終の美を飾ってターフを後にした。
最初にジャパンカップ出走を明言したのは秋華賞で三冠達成したデアリングタクト。それに続いて3000mの菊花賞を激戦で制したコントレイルが中4週の苦しい日程で参戦表明。更に、引退レースとして香港GⅠを目指していたアーモンドアイが急遽、参戦を明かして史上初の三冠馬3頭のドリームレースが実現。売上272億円という前年比大幅アップで盛り上がったレースの主役3頭をピックアップ。
●1着アーモンドアイ
アーモンドアイが勝った。私的には巷で騒がれる『史上最強馬』程の強さとは思っていない。ただ、『史上最強牝馬』とは認めてもいいだろう。そもそも、史上最強と言っても比較する明確な物差しがない。15戦11勝は確かに超一流馬の証しだが、これくらいの成績の馬は過去にもいた。
しかし、広い東京競馬場のクラシックディスタンスという言い訳なしの2400mで、無敗三冠馬2頭に勝ったのだから現時点での『現役最強馬』だった事は確かだろう。この馬は全て芝コースの1400mから2500mの間の距離で走っているが、ベストは2000mか2400mのはず。
マイル戦でも圧倒するスピードは持っているが、スタートが遅いので取りこぼしの危険性が常につきまとう。GⅠ9勝の中には牝馬限定のレースが含まれているので、若干評価は下げざるを得ないが天皇賞(秋)とジャパンカップを2勝しているのだから、紛れもない超一流馬には違いない。
最近の日本競馬界では牝馬の強さが際立っている。今年行われた古馬の牡牝混合GⅠレースで、3200mの天皇賞(春)以外は全て牝馬が勝利。その代表格のアーモンドアイ。12月19日に引退式が行われて繁殖入り。初年度は菊花賞、ジャパンカップを制したエピファネイアとの種付けが予定されている。己を超える産駒の誕生を期待したい。
●2着コントレイル
ジャパンカップ参戦が発表された時点で、コントレイルファンの私は耳を疑った。一昔前よりは菊花賞とジャパンカップの間隔が開いているとはいえ、近年菊花賞を制した馬のジャパンカップ参戦は例がない。現代競馬で3000mを激走して中4週のジャパンカップは明らかに負担が大きい。
「調教師としてというよりも、競馬ファンとしてデアリングタクトとの無敗三冠馬対決にわくわくする」という趣旨のコメントを発した矢作芳人調教師。しかし、仮にそういう気持ちで無理な参戦を決意したとしたら調教師失格と言われても仕方あるまい。『競馬界の至宝』の無敗三冠馬を管理するには余りにも浅はかと言わざるを得ない。
結果的に無理なローテーションで挑んで無敗連勝というファンの夢を潰してしまった。別に負けたから言っている訳ではなく、これ程の馬をベストコンディションに整える事なくレースに使う事は批判されても仕方あるまい。「少しでもおかしいところがあれば、すぐに中止する」とは言っていたが、1週前追い切りで本調子でないにもかかわらず出走に踏み切ってしまった。
このレースだけでなく、今後更に期待される馬だけにダメージが心配で残念でならない。これからコンディション第一にレース選択して行けば、9冠を超える可能性がある。アーモンドアイとの雪辱戦は出来ないが、やはり、この馬こそ最強と言われるように、この負けを教訓にして本物の『史上最強馬』を目指して欲しい。
●3着デアリングタクト
この馬がジャパンカップ参戦を表明した時は、まさか三冠馬3頭の頂上決戦になるとは夢にも思っていなかったに違いない。ただ、コントレイルが3000mの菊花賞激戦の後の中4週。アーモンドアイは香港遠征予定から急遽中3週での出走という中、この馬のコンディションのアドバンテージから勝利の可能性も期待されていた。
ただ、コントレイルと同様に一部の心ないファンからは、低レベルでの無敗三冠馬という根拠のないレッテルを貼られかけていたのも事実。中5週という理想的なローテーションで追い切りも良く、コントレイルやアーモンドアイに勝って、『強い無敗の牝馬三冠馬』をアピールしたかったはず。
結果的に3着で他の三冠馬の後塵を拝したが、最後にカレンブーケドールやグローリーヴェイズという別世代の強豪に競り勝ったのは、意義のある3着だったと言える。今後は適正距離を見極めて勝利を重ね、来年再びコントレイルとの『三冠馬決戦』で、アフターコロナの競馬を盛り上げて欲しい。