東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県に緊急事態宣言が発令されて再び暗雲が漂う日本列島。そのお膝元東京両国国技館で行われる大相撲初場所。場所前から横綱白鵬をはじめ力士にコロナウイルス感染が相次ぎ、怪我なども含めて関取１６人が休場。全力士６６５人中９８人が休場という異常事態になっている。
そんな中で敢えて初場所開催を決断した日本相撲協会。『相撲を見て頂いてコロナウイルス禍の暗い世の中、少しでも元気になって頂きたい』という思いでの本場所開催。正に、崖っぷちでの開催だが、そんな初場所の見どころと、優勝争いを展望してみた。
● 貴景勝の綱取りは？
今場所最大の目玉だった大関貴景勝の綱取り。２０２０年９月場所１２勝３敗、１１月場所は１３勝２敗で優勝。横綱が休場続きの中、昨年はコロナウイルス感染拡大で中止になった５月場所以外は途中休場はあったものの、ここ２場所安定した成績を残してきた。
当然、今場所優勝すれば文句なしに横綱昇進の権利がある。しかし、初日、２日目と連敗。立ち合いの当たりで相手を浮き上がらせるいつもの力強さに欠け、その後も持ち前の重心の低さを活かした押し上げる相撲がない。そのためにいなしも効果なく逆に付け込まれて御嶽海に押し出され、大栄翔にはたきこまれた。
押し相撲だけに、一つ勝てば調子に乗って本来の相撲を取り戻す可能性もあるが、初日、２日目の土俵からは劇的な復調は難しいだろう。優勝制度が確立した１９０９年以後２連敗からの優勝力士は皆無。ここは落ち着きを取り戻して綱取り云々は忘れて、まずは自分本来の相撲を取り切る事が第一。
● 照ノ富士の大関は？
平成生まれ初めての大関として、飛ぶ鳥を落とす勢いですぐにも横綱昇進とみられていた照ノ富士。しかし、右膝の怪我から大関陥落、更に幕内、十両からも落ちて関取の座を失う。結局、膝の他に糖尿病なども患い序二段まで番付を下げてしまう。しかし、そこから照ノ富士の第２のサクセスストーリーが始まる。
引退まで決意したが、伊勢ヶ濱親方の励ましに応えて一場所ずつ番付を戻して史上初の大関経験者の序二段からの関取復帰を決める。更に十両、幕内と駆け上がり即幕内復帰優勝という史上初の快挙を達成。大関時代は傲岸不遜な態度だったが、苦労を重ねて人間的にも成長し、ニュー照ノ富士として帰ってきた。
幕尻優勝で前頭筆頭にまで躍進した昨年９月場所で８勝、１１月場所は１３勝２敗で優勝決定戦に進出。大関昇進の目安と言われる３３勝には今場所１２勝で達するが、１３勝以上は必要だろう。ただ、横に動く力士に対しての不安があるし、今場所二桁勝利をあげて来場所更に体調を整えて狙うのが妥当なところだろう。
● 優勝の行方は？
もう、横綱の力も衰えて休場を繰り返す今の大相撲は正に【戦国時代】。昨年の５場所中、横綱は白鵬の優勝１回だけで大関、関脇が各１回。前頭１７枚目という幕尻の優勝が２回という下克上がまかり通る有り様。はっきり言って、大関から幕尻まで出場全力士に優勝のチャンスがあると言っても過言ではない。
初日、２日目まで観た限りでは優勝争いは正代と朝乃山を中心に繰り広げられそう。正代は力強い上体を武器に多少押されても残す力があり、大きく崩れる心配はない。初日に土がついた朝乃山は立ち合いの強い押し相撲にやや不安はあるが、柔らかい足腰で残して廻しを取れば力は上。この大関２人に期待する。
伏兵は多士済々。両関脇の照ノ富士、隆の勝に大関２人を連破した小結大栄翔の三役陣。二日間目を見張る力強い相撲の阿武咲も怖い。更には、番付下位で星を伸ばして勢いで優勝争いに絡む力士や、実力がありながらパッとしなかったベテラン勢の巻き返しまで、全ての力士から目が離せない面白い優勝争いになりそう。
冒頭に述べたように、コロナウイルス感染で休場者が多数いる上に、緊急事態宣言発令が更に増えていくはず。大相撲も出場力士に感染者が出た場合は途中での中止もあり得る状況。『コロナウイルス禍の中、相撲を見て頂いて元気を出して頂きたい』という意義で開催した初場所。一人の感染者を出す事なく無事に千秋楽を迎えられる事を切に願っている。
