陸上の世界選手権が米オレゴン州ユージンで開幕。本来、世界陸上は4年1回夏季オリンピックの前年に開かれていたが、1991年東京大会以降は夏季オリンピックを挟んだ前年と翌年の隔年で開催されるようになった。よって、世界陸上、夏季オリンピック、世界陸上と3年連続でビッグイベントが観られるという陸上ファンにとっては夢のひとときが続く事になった。
それだけでも堪らないのに、東京オリンピックが一年延期した事によって2021年東京オリンピック、2022年ユージン世界陸上、2023年ブダペスト(ハンガリー)世界陸上、2024年パリオリンピック。そして先日決定した2025年東京世界陸上と、5年連続でビッグイベント開催という夢のラッシュアワーが実現する。
競歩王国ニッポン
近年陸上では最もメダル獲得の期待がかかる競歩。世界陸上では1990年代から入賞者は出していたが、優勝や表彰台には遠かった日本に初めてメダルをもたらしたのは2015年北京大会。男子50キロでの谷井孝行の銅メダル。この大会不振の日本勢に唯一の貴重なメダル獲得となった。その翌年2016年リオデジャネイロオリンピックで、前年の北京世界陸上で谷井に次いで4位に終わった荒井広宙が50キロで3位になり、日本競歩界初のオリンピックメダリストになった。
その後も競歩の日本勢快進撃は止まらず、2017年ロンドン大会で50キロで荒井、小林快が銀銅と初めての複数メダル獲得。そして、2019年カタールで行われたドーハ大会20キロで山西利和、50キロで鈴木雄介の2選手が初めての世界陸上金メダル獲得。更に東京オリンピック20キロで池田向希が銀、山西が銅を獲得。そして、今大会山西が連覇、池田が2位と初めてのワンツーフィニッシュ。
もう、完全な競歩王国となった日本。2015年世界陸上北京大会から全てのオリンピック、世界陸上で次から次へと新しい有望選手が現れる選手層の厚さが日本の競歩界の黄金期を如実に物語っている。今後は後に続く選手達と実績組のメダリスト達との熾烈な国内の争いを通して、更なるレベルアップを遂げていくのだろう。そして、今大会から50キロが廃止されて35キロが新たに登場。初代王者に挑む川野将虎、松永大介、野田明宏の3選手の活躍も期待したい。
躍動サニブラウン
男子100メートル予選はサニブラウン・ハキームと坂井隆一郎の2人が共に予選通過。特にサニブラウンは向かい風ながら9秒98で7組1位で偉業を予感させる走り。そして準決勝は好スタートでリードしたように見えたが予選と違ってスムーズな走りには見えなかった。T・ブロメル(アメリカ)、A・シンビネ(南アフリカ)に抜かれ3着。3着以下はタイムで拾われるが10秒05では無理と思われたが、この日は時計の出ないコース状態か何とか決勝進出。
世界陸上では初めて、オリンピックを含めても1932年ロサンゼルス五輪の『暁の超特急』と言われた吉岡隆徳以来の決勝進出となったサニブラウン。スタートで若干後手を踏んだが中間までは上位陣に引けをとらないレース。しかし、中盤以降の伸びは雲泥の差でみるみる離されていく。ブレッド・カーリーの9秒86から0秒2差の7位。アメリカ勢との力差をまざまざと見せ付けられたが、決勝の舞台で走った経験は限りなく大きい。サニブラウンのみならず、離脱中の山縣亮太、桐生祥秀らの日本選手全体のレベルアップに繋がるはず。
橋岡、三浦に世界の壁
世界のスポーツ界は日進月歩。若くして結果を残したとしても自らが更に進歩を遂げないと、新たなアスリート達に追い抜かれていく。東京オリンピック男子走り幅跳び6位入賞の橋岡優輝は8メートル18の予選トップで通過。しかし、決勝は1、2回共にファウル。予選通過12人中4回目に進めるのは8人だけ。上位8人へのライン7メートル91以上を狙ったがファウルを恐れて踏切りラインより手前からのジャンプ。「世界大会一つだけでの経験では不十分」と、怪我で海外転戦が出来なかった事を悔やみ、ダイヤモンドリーグ等への参戦を誓った。
『今大会トラック種目で最もメダルに近い男』とも言われた男子3000メートル障害の三浦龍司。レース中盤ではトップに立つ積極さも見られ、余裕があるようにも見えたが終盤の勝負所で付いていけず順位を下げた。「積極的に行く事は出来たが、逃げ切る姿勢はなかった。そこは自分の自信のなさ」と自己分析。結局、8分21秒80で2組5着に終わり4着以下の上位6人が決勝進めるタイムに0秒74届かず無念の予選敗退。東京オリンピックでこの種目の史上最高7位入賞の20歳のホープ。世界の層の厚さを確認し、来年のブダペスト大会、その先のパリを見据える。